「古事記異聞」出雲シリーズを全て読んでみた。高田崇史ワールド炸裂

2.5
書評

出雲大社

 

「古事記異聞」シリーズ・高田崇史:著

2018年に始まった新シリーズ 古事記異聞

 

高田崇史氏による古代史ミステリー。

主人公たちが遭遇する殺人事件を絡めたり絡めなかったり、

古代史の謎解きを主人公のフィールドワークと共に進める展開。

QEDシリーズなどと展開が多少違うのは、

登場人物たちが歴史の謎解きに挑む研究者だということでしょうか。

主人公は日枝山王大学の大学院一年生で民俗学研究室に所属する女の子、

橘樹雅(たちばな みやび)22歳。

アラカン世代の著者が描くには、ちょっとキツイようなキャラ設定かも。

シリーズのスタートは2018年の6月。

しかし、物語の設定は10年も前になる2008年春。

なぜそういう設定にしたのかは、いまのところ不明です。

それと2008年の「出雲大社本殿特別拝観」というビッグイベントも、

無関係ではなかったと想像しています。

将来、主人公が「出雲大社本殿特別拝観」に行く場面が書かれるかも知れません。」

「QED 出雲神伝説」の巻末「エピローグ」の更にあとに、

「出雲大社本殿特別拝観」の様子が書かれています。

タタルと小松崎などの訪問記録のように書かれていますが、

著者の実体験を記したものだと思われます。

平成20年4月21日から8月17日の間の指定された期間、

合計37日だけ実施された「特別拝観」でした。

著者が拝観したのは5月3日だったようです。

 

 

文庫版

 
 

 

 

私は著者の2週間後、5月17日に拝観させていただきました。

大阪を発ったのは16日の夕方近くで、帰阪は17日の夕方。

出雲大社の特別拝観に3時間も待ったにも関わらず、出雲大社の他6つの神社と

島根県立古代出雲歴史博物館に行きました。

正に「弾丸ツアー」と言った感じの旅行でした。

 

古事記異聞・出雲関連シリーズ

 

1.古事記異聞 鬼棲む国、出雲 (2018年6月8日)

2.古事記異聞 オロチの郷、奥出雲 (2018年10月5日)

3.古事記異聞 京の怨霊、元出雲 (2020年7月8日)

4.古事記異聞 鬼統べる国、大和出雲 (2020年11月6日)

 

この4作品で主人公の橘樹雅は2008年3月から4月(初旬か)にかけて

出雲(奥出雲)、京都、奈良に出かけています。

なぜこのような短期間に、東京在住の主人公がフィールドワークに出かけたのか。

それは「出雲大社・本殿特別拝観」が関係しているのかも知れません。

「古事記異聞 鬼棲む国、出雲」の中で雅は出雲大社に参拝しながら、

「本殿特別拝観」に参加したいと強く思う様子が書かれてありました。

出雲関連シリーズのあとに出版された「古事記異聞 陽昇る国、伊勢」では、

舞台は2008年4月半ば過ぎの週末という設定でした。

スマホのカレンダーで確認してみると、それはおそらく4月19日のこと。

出雲大社では「本殿特別拝観」が始まる直前でしたが、

作品内でそのことには触れられていませんでした。

 

 

 

文庫版

 

 

 

次回作は籠神社(このじんじゃ・京都府宮津市)が舞台となる予想。

もし「出雲大社本殿特別拝観」でQEDシリーズのタタルたちとの「ニアミス」があるなら、

雅は2008年の3月からGWにかけて、ほぼ毎週末毎に旅行することになりそうです。

しかし「出雲大社本殿特別拝観」は、往復はがきでの事前予約が必要だったと思います。

ちなみに「QED 出雲神伝説」の巻末に書かれた、タタルの特別拝観の様子ですが

タタルの「家族」については全く触れられず、奈々の話題もほとんど出ていません。

そのときタタルは41歳になっていたはず。

ファンとしてはタタルと奈々がどうなっていたのか気になったでしょうね。

私はシリーズ本編最終巻「QED 伊勢の曙光」を先に読んでいたので知っていました。

その作品にはタタルが奈々にプロポーズした「ような」ことが書かれていて

そのあと二人は腕を組んでバーに向かうところで物語が終わっています。

永遠の愛を意味する「パルフェ・タムール」というお酒があるそうです。

奈々はそのお酒を使ったカクテルを飲んだようです。

 

高田崇史氏 安定のキーワードと雅が飲んだ奥出雲ワイン

 

出雲関連シリーズには、お約束のキーワードが満載です。

「怨霊」そして「丹(水銀)」「たたら製鉄」

そしていつものように、昼間っからでも酒を飲む主人公たち。

ビールは飲みますが、最近の定番とも言える酎ハイやハイボールは飲みません。

訪問した先の地酒かカクテルを飲むことが多い登場人物たち。

これは著者の趣味によるところが大きいのでしょうね。

「古事記異聞 鬼棲む国、出雲」と「古事記異聞 オロチの郷、奥出雲」では、

雅は出かける前から「奥出雲ワイン」を頻繁に飲んでいます。

これは本当にあるワインのようです。著者のお気に入りかも知れません。

雅がスーパーで見つけたのは赤ワイン。

当然ですがいくつか種類はあるようです。22歳の女の子には多少贅沢かとも思いましたが

著者が飲んだワインでもあると仮定して、予想したワインがこれです。

 

 

 

 
文庫版
 

 
 

本シリーズでの訪問地・神社などと移動方法

 

「古事記異聞 陽昇る国、伊勢」と違い、違和感を感じる箇所はほとんどありませんでした。

私は大阪在住で、20年近く神社巡りを趣味にしています。

出雲関連シリーズでは、この私が教えられる箇所が多々ありました。

京都や奈良には数えきれないほど行っていますが、知らない場所がたくさん紹介されていました。

さすが古都は奥が深いと感心してる場合ではなく、ちょっと焦りました。

私も一応「神社マニア」を気取っていますが、まだまだ修行が足らないようです。

例えば下鴨神社(賀茂御祖神社)境内にある「出雲井於神社(いずもいのへのじんじゃ)」

何度も前を通っていましたが、いつも素通りで見向きもしていませんでした。

この地に「出雲」があることに違和感を感じながら、「なぜここに?」という

疑問と探求心に進める気持ちになっていませんでした。

奈良の率川神社(いさがわじんじゃ)には参拝したことはありますが、

参拝記録も残しておらず全く印象に残っていません。

しかも恥ずかしながら「そつがわじんじゃ」だと思っていました。

「古事記異聞 鬼棲む国、出雲」「古事記異聞 オロチの郷、奥出雲」では、

雅が一人で旅をする話として描かれています。

そして「古事記異聞 京の怨霊、元出雲」では京都在住の金澤千鶴子と出会い、

殺人事件に巻き込まれながら千鶴子に京都を案内してもらう展開。

そしてその金澤千鶴子は、雅が所属する研究室のOGという設定です。

「古事記異聞 鬼統べる国、大和出雲」でも二人は行動を共にしています。

各訪問地への移動方法についても、現実離れした設定はありませんでした。

最も移動が困難な奥出雲では、泊まった民宿の主に車で案内してもらう展開でした。

 

 

 

文庫版

 

 

古事記異聞・出雲関連シリーズのツッコミどころ

またもや神社の「千木・鰹木」について

 

「古事記異聞 陽昇る国、伊勢」ほどには違和感はなかったものの、

出雲関連シリーズでもいくつか「ツッコミ所」はありました。

そのひとつが、またもや「千木・鰹木」の問題。

著者は作品の中で日枝山王大学の水野教授の言葉として、

「男千木・女千木、鰹木の数と男神、女神との関係は本来は例外はない」

そういった意味のことを書いています。

その理由をどう解決させるのか、全く予想がつきません。

伊勢神宮での千木の謎もそうですが、「鬼棲む国、出雲」でも例外が紹介されます。

出雲から研究室に電話をした雅に、御子神准教授がクールに言い放ちます。

「きみは本当に行って来たのか?」「社殿を見たのか」「きちんと確認しなかったんだな」

日御碕神社は「神の宮が女千木、日沉宮が男千木だ」と指摘されて焦った雅。

神の宮は素盞嗚尊(男神)、日沉宮は天照大神(女神)を祀っているのです。

そのことは私も全く知らず、ちょっと驚いたのですが

「ちょっと待てぇ~」と突っ込みたくなりました。

出雲で千木を話題にするのなら、なぜ出雲大社の千木を無視するのかと。。。

この記事のTOP画像をご覧ください。

出雲大社・本殿の横にある二社は、本殿に近い方が

御向社(みむかいのやしろ)で御祭神は須勢理比売命(すせりひめのみこと)。

もう一社は天前社(あまさきのやしろ)で御祭神は蚶貝比売命(きさがいひめのみこと)。

両社の御祭神は大国主命のお后などで、どちらも女神ですが

千木は外削ぎ(男千木)で鰹木は3本(奇数)なのです。

このように、出雲大社の摂社・末社は全て外削ぎの千木(男千木)なのです。

かなり前から数々の著書で出雲を扱い、出雲大社についても書いている著者。

出雲大社の千木に気づいてないのでしょうか?

それとも「とっておきの」謎解きでも隠し持っているのでしょうか。

もし気づいてないのなら、いつか気づいたときに出雲大社の千木をどう説明するのか

ちょっと意地が悪いようですが、楽しみです。

高田崇史氏の著書は「歴史ミステリー」です。

日々、歴史解釈は変化しますし著者自身の新たな気付きなどもあることでしょう。

そういった変化について、後発の著書で「うまくかわしている」ケースがあります。

次にこの「出雲関連シリーズ」での「変化」をご紹介します。

 

出雲大社の御祭神は大国主命とは別の神さま?

 

「鬼棲む国、出雲」で書かれていた大国主命についてですが、

「何故、主祭神が横を向いているんだ?おかしいと思わなかったかね」

雅が研究室に電話すると、またもや御子神准教授から指摘を受けます。

それを調べたいと思っていると答えた雅に対し、御子神准教授はこう続けます。

 

「単純な話だ。出雲大社には、大国主命とは別に、

           本当の主祭神がいらっしゃるということだ」

 

 

 

上の図は、出雲大社・本殿内部の略図です。

「御神座」に鎮座する大国主命は参拝者の方ではなく、横を向いています。

御子神准教授の言葉によれば、参拝者は横を向いた大国主命に「スルーされ」て

実は本殿の真後ろにある素鵞社(そがのやしろ)に参拝していることになる。

そしてその素鵞社の御祭神、素戔嗚尊こそが本当の出雲大社の主祭神だ。

著者はそう主張しているのです。

このことは2009年に出た「QED 出雲神伝説」にも書かれていました。

ミステリーのフィクションとしての「謎解き」ならば、けっこう面白い「オチ」だと思います。

多くの読者は驚いたり、感心したことでしょう。

しかし大きな声では言えませんが、実はこれには間抜けな「オチ」があります。

素鵞社の社殿も「大社造り」なのです。

つまりそこに祀られている素戔嗚尊も、横を向いているのです。

 

このことを誰かに指摘されたのかも知れませんし、著者自身が気づいたのかも知れません。

この作品の2年後に出された「鬼統べる国、大和出雲」では表現を変えています。

大国主命は高い所(本殿)に「祀り上げられて・・・」と書いています。

つまり横を向いて「スルー」しているのではなく、高い所に祀り上げられているので

参拝者の祈りは大国主命の下を「スルー」して、素鵞社に届くということです。

「うまくかわしたなぁ」と思いましたが、なかなかの着地点を見つけたものです。

 

しかし、「素鵞社の素戔嗚尊が、出雲大社の本当の主祭神」という著者の意見には

私としては疑問を感じています。

確かに境内にある「銅鳥居」には、(出雲大社の)御祭神は素戔嗚尊だと記されています。

しかしこれには理由があります。

実は中世のある時期から1667年まで、出雲大社の御祭神は素戔嗚尊だったそうです。

その理由は長くなるので、興味のある方はWikipediaの記事をご参照ください。

ちなみに「銅鳥居」が毛利氏から寄進されたのは1666年。

つまりその年には、本殿の御祭神は本当に素戔嗚尊だったということなのです。

私は素鵞社は、長きに渡り本殿に祀られていた素戔嗚尊を遷したお社だと考えています。

その状況証拠が島根県立古代出雲歴史博物館に展示されています。

 

※【参考】Wikipedia「出雲大社」

 

 

 

 

この写真は島根県立古代出雲歴史博物館に展示されている出雲大社境内の復元模型。

これは1609年の境内の様子で、神仏習合色が強く三重塔も建てられています。

この時の本殿の御祭神は素戔嗚尊だったと考えられています。

 

 

 

そしてこちらは1667年の境内の復元模型です。

仏堂や仏塔は移築・撤去されて本来の出雲大社の姿に戻っています。

御祭神は大国主命に戻されたそうです。

違いは御祭神や、仏堂や仏塔の在る無しだけではありません。

1609年の復元模型には素鵞社がありません。

少しわかりにくいとは思いますが、1667年の模型には素鵞社の姿が見られます。

つまり素鵞社は出雲大社の真の主祭神を祀ったお社ではなく、

1667年に素戔嗚尊を「遷し祀る」ために建てられたものだという可能性が高いのです。

 

古事記異聞・出雲関連シリーズ まとめ

 

「古事記異聞 陽昇る国、伊勢」のレビュー記事に続き

またまた「ツッコミ」記事になってしまった感があります(反省しています)。

高田崇史さん、ごめんなさい。

しかし私は「古事記異聞 陽昇る国、伊勢」を読んだあと、

たった1ヶ月の間にこのシリーズ4冊を購入して一気に読み終えたのです。

もちろん「ツッコミ記事」を書くためではありません。

ツッコミは神社マニアで、多少現地を知る(伊勢)私の余計なお世話。

普通の読者ならそれこそ全て「スルー」どころか、気にも留めない些細なことでしょう。

「古事記異聞」シリーズは登場人物も研究者ですし、

殺人事件に深く巻き込まれる場面もありません。

神社好き、古代史好きには素直に楽しめる貴重な作品群だと思います。

次回作も楽しみにしています。

 

 

 

 

 

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